君は「宇宙からのメッセージ」を知っているか
2018年の春。
私はうつで仕事を休んでいた。
うつで仕事を休んでいるので、なーんもすることがない。
元気がなくて何もできないからだ。一日中布団の上にいるしかない。
かといって、本当に何もしないでいると、起きている間中、不安とか自分を責める声とかに悩まされる事になる。
そんなわけで、布団の中でパソコンを開き、ネットフリックスやらアマゾンプライムやら YouTubeやらを見て気を紛らわして一日をやり過ごす、と言う日々だった。
その頃よく見ていたのは1970年代〜1980年代くらいの日本のヤクザ映画だった。
なんでかと言うとその頃放送していたポプテピピックと言うアニメのせいで、このアニメに「仁義なき戦い」パロディ回があったり、ポプテピピックきっかけで成田三樹夫と言う俳優のファンになったりといったことがあったからである。
(ちなみにポプテピピック(漫画もアニメも好きだが特にアニメ)はめちゃくちゃうつの脳によかったので、そう言う話も今後書けたらなと思う)
それまでミニシアターでやっているようなアート系の洋画なんかをよく見ていた私であったが、昭和のヤクザ映画はかなり面白く、またうつのボンヤリした頭でも見やすいと言うことがわかった。
で、問題は「宇宙からのメッセージ」という映画である。
これはヤクザ映画ではない。
いわゆるスペースオペラってやつである。
なぜヤクザ映画を見ていた私が突然スペースオペラを見出したか。
この作品は実録ヤクザ映画で時代を席巻していた東映が、ヤクザ映画の名監督深作欣二を起用し、キャストにもヤクザ映画で活躍するスターを迎えて撮った作品で、ほぼヤクザ映画みたいなもんだし(ほんとか?)、何より私の推し俳優成田三樹夫が出演していたからだ。
この「宇宙からのメッセージ」は、あの「スター・ウォーズ」が爆流行りしていた1978年に、原案に「仮面ライダー」の石森章太郎、監督に「仁義なき戦い」の深作欣二、キャストも今をときめくスターに加え、海外の俳優も起用する気合の入りようで制作された、日本特撮映画の頂点に立つべき超大作!
……になるはずだったクソ映画である。
ーーここから言い訳ーー
一応断っておくと、ここで言う「クソ映画」とは「クソゲー」などと同じニュアンスで、お世辞にも出来がいいとは言えないが、しかし噛めば噛むほど味が出る、妙に癖になる、でも何回も見るもんじゃないな、まあみんな頑張ってるんだけどさ。みたいな映画のことである。決して見る価値もないつまらない駄作と言う意味ではない。まあ強いてみる必要があるかと言えば、ないけど……
ーー言い訳終わりーー
なんでこんなに気合が入っているのにクソ映画になるのか。
あるいは気合が入りすぎているからクソ映画になってしまうのか。
とりあえず、私から見てクソだな〜と思うポイントを紹介していこうと思う。
- クソポイント① スペースオペラがよくわかってない。
- クソポイント② 戦闘力0のスペースチンピラがなぜか勇者枠で登場する。
- クソポイント③ 私の推し俳優・成田三樹夫がトンチキな格好で登場する。
- いいところ① 特撮技術が当時の最先端ですごい。
- いいところ② 推しが頑張っている。
クソポイント① スペースオペラがよくわかってない。
いきなり致命的なのだが、製作陣の、「スペースオペラってこう言うことやろ」がことごとくなんかズレている。
そもそも、話のベースが「南総里見八犬伝」って言うのがよくわからない。なんで?なんで八犬伝ベースでやろうとしたの?
いや、まあ世の中にはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を翻案して大ヒットした「ウェスト・サイド・ストーリー」とかもあるし、「スター・ウォーズ」もある種時代劇っぽい筋書きだし、古典を宇宙ベースで翻案しようという発想はわからんでもない。
しかし、あまりにも八犬伝であり、日本的時代劇の空気なのだ。
深作監督らしさが出過ぎちゃったのが原因かな〜とも思わんでもない。
冒頭、迫害された惑星の人たちが助けてくれる勇者を探して旅に出るくだりは、まんま深作時代劇の田舎の村の描写って感じだし。
もちろん、この映画が公開されてから何十年もたった世界に生きている私が見てそう言うこと言うのは後出しジャンケンかもしれない。
「スター・ウォーズ」もまだ第1作しかないし、ガンダムもまだ世に出てないし、「銀河英雄伝説」だってまだないし……
そんな時代の日本という国で作られたなら、よくわかってなくても仕方ない……?のか?でも「宇宙戦艦ヤマト」はもうアニメやってたらしいですよ??「スター・トレック」も日本公開されてたらしいし……
とにかく、大作でありながらどうにも手探り感が否めない出来なのである。
クソポイント② 戦闘力0のスペースチンピラがなぜか勇者枠で登場する。
これは個人的に一番気に入っているポイントかつ一番意味不明だなと思っているところなのだが、本当になぜかわからないが宇宙のチンピラ、スペースチンピラが出てくるのだ。
スペースチンピラは、おおむね日本のチンピラと姿形も変わらず、言動も変わらない、ただのチンピラである。
しかし、なぜかこいつが作中では迫害された惑星を救う勇者認定されているのだ。
先ほど言ったように、「宇宙からのメッセージ」は、「南総里見八犬伝」をベースにしている。そのため、なんか神秘的な木の実(なんだそれ)に勇者認定されて敵と戦うキャラクターが8人登場する。
そのうちの一人がこのスペースチンピラである。
別にチンピラが勇者でもいいだろ、と思われるかもしれないが、大きな問題がある。
こいつの推定戦闘力は0なのだ。
勇者なのだから何かしら敵と戦うとか、敵と戦わなくても参謀役とか情報収集の能力があるとか、そういう描写は一切ない。なんか他の勇者に混ざって、チンピラっぽい動きをしている。終わり。なんでや。
そう、明らかに数合わせのメンバーなのである。
「南総里見八犬伝」を翻案しようとする者に降りかかる呪いであるところの、「8人全員のキャラを立たせて活躍させる出番を作るの、尺的に無理の呪い」の犠牲者。
そもそもメインキャラが勇者枠だけで8人というのは多い。原作は長編小説だから成立しているが、舞台や映画や単発ドラマだと無理がある。なぜ「宇宙からのメッセージ」製作陣は馬鹿正直に「8」という数字をそのまま使ったのだろうか……6とかでもいいじゃん。
しかし、このスペースチンピラ、作劇上まったく必要性がないキャラでありながら、所々で「私は深作欣二映画を見ているのだなあ」と実感させてくれるという謎の効果があるのであった。
クソポイント③ 私の推し俳優・成田三樹夫がトンチキな格好で登場する。
これは見てもらった方が早い。
この顔面が銀色のカニっぽい人がそれである
な ん こ れ
いつもの推しはこんな感じ。
いつもはダンディーな推しが顔面銀色のカニにされた人間の気持ちが君たちにわかるか。
別にわからなくてもいいが……
成田三樹夫が演じたこの悪の皇帝ロクセイア12世だが、同じ星出身という設定の、千葉真一演じるハンス王子は顔面は銀色じゃありません。なんでなんだ……
この顔面銀色蟹皇帝ことロクセイアさんは、なんと二刀流の剣術の使い手でもあり、物語終盤で謎のチャンバラをやってくれたりもする。
ここまでさんざん映画の悪口を行ってきたが、豪華製作陣が夢と希望をもって製作した超大作、もちろんいいところもある。
いいところ① 特撮技術が当時の最先端ですごい。
やはり特撮技術は流石のもので、小型宇宙船でのカーチェイスなどはなかなか迫力と速度感を感じる。
もちろん昔の作品なので「この頃にしてはすごい」ということではあるのだが、脚本や演出の面ではSFやスペースオペラについてあやふやな感じなのに、特撮となるとしっかりした自信を感じるので、うまく噛み合っていればいい作品だったんだろうな〜と圧倒的「惜しさ」を感じる。
いいところ② 推しが頑張っている。
結局推しの話かよ、と思われたかもしれないが、結局推しの話である。
だってこんな映画推しが出てなきゃ真面目に最初から最後までみるわけないだろうが。本当につまんないんだぞ。
そう、私の推し俳優成田三樹夫は、顔面銀色蟹になっても真面目に芝居をしていた。そういう真面目な人間なのである。
作中、成田三樹夫演じる悪の皇帝ロクセイアが、その辺にいた地球人を捕まえて頭の中を覗き、地球という美しい惑星の存在を知る、というシーンがある。
彼が率いるガバナス帝国は、なんやかんやで故郷を失い、新天地を求めて彷徨を余儀なくされていた。そんなわけで、新たな故郷となりうる美しい惑星は、この上なく魅力的なのである。
このシーンで、成田三樹夫は素晴らしい芝居をする。
初めてみる惑星の映像に、冷徹な支配者である皇帝が、子供のような輝く瞳でため息をつく。
どうしてもこの惑星を手に入れたい。そういう思いが伝わってくる、丁寧で美しい芝居である。
このシーンを初めて見た時、私は感動した。そして思った。
「そんなに真面目に芝居せんでもええんちゃうか」と。
もちろん役者というのはどんな作品でも役に真摯に向き合い演じるのが理想だとは思うが、それにしたってこんなちぐはぐな映画で顔を銀色に塗られてこんなに頑張らなくてもいいんじゃないか、そういう気持ちになるほどの熱演であった。
成田三樹夫出演作品は映画だけでも40作品以上見てきたが、こんな気持ちになった作品はこれくらいである。
以上が映画史に残るクソ映画「宇宙からのメッセージ」の紹介である。
これを読んで映画を見てみてもいいし(2022年5月現在、アマゾンプライムビデオなどで有料で視聴できる)、見なくてもいい。
おそらく見てみると想像の3倍つまらないが、私に文句は言わないでほしい。
いい映画を見たかったら「仁義なき戦い」シリーズとか、「柳生一族の陰謀」とか、同じスタッフ・キャストで名作がたくさんあるので、そちらを見ることをおすすめする。
この文章はゴールデンウィークが休日出勤により蹂躙され、やっと日曜日の午後だけ休みをもぎ取ったものの明日からも普通にカレンダー通り仕事の人間がそのなけなしの休みを利用して書いている。
なんでこんな貴重な休みを使って見なくてもいい映画のレビューをしてしまったのか。
深く考えたら負けである。