おひるね研究所

おひるねか、思惟か。

怒りを刺繍する夜

チク……

新卒で入った会社はエグいブラック企業だった。

芸能関係の仕事だったので、覚悟はしていたのだが、深夜残業、徹夜、パワハラ、セクハラが当たり前の、地獄のような環境だった。

 

労働環境は確かに悪かった。

しかし若いわたしにとっては、夢を叶えるためにはむしろこれくらい苦労している方が、いかにも頑張っている感じがして気持ちいいくらいだった(いま思えばバカである)。

 

しかし問題は、そこではなかった。

ブラック企業というのは、単に労働環境が悪いだけということはあまりない。

その労働環境を作り出している、「狂った奴ら」が必ず存在しているものである。

 

とにかく、その会社の人々は狂っていた。

一般常識はまったく通用しない、異世界の住人たちである。

結構な老舗企業だったのだが、おそらく真っ黒な労働環境が狂った人々を作り出し、さらに狂った人々が労働環境を悪くするという最悪の循環が起きていたのであろう。

 

そんな暗黒の異世界に、新卒Lv.1の最弱のクソガキことわたしはうっかり足を踏み入れてしまったのであった。

 

狂った人々、特に直属の上司たちからは、ありとあらゆるハラスメントを受けた。

 

その中には、辞めて数年たった今でも、思い出しては怒り狂ってしまうような記憶がいくつもある。

 

フウ……

バカ田という上司がいた。

バカ田というのはさすがに仮名である。

とにかくすごいバカであった。

しかも見栄っ張りなバカである。

バカな上に女にモテたくて仕方ないオッサンであった。

 

芸能関係の仕事なので、ときに女性タレントなんかと一緒に仕事をする機会がある。

女性タレントが来る仕事になると、バカ田はめちゃくちゃ真っ黒に白髪染めをして現場にやってくる。

いつもはボサボサの白髪なのに、美人が一緒のときだけ、美容室でマジの真っ黒に染めた上に、大量のワックスでネチョネチョにして、LUNA SEAのメンバーみたいな髪型にしてくる。

LUNA SEAのメンバーみたいな髪型だが、顔はなんかいつもニタニタ笑っているオッサンであり、髪はすこぶるウェッティである。

 

わたしを含め周囲は「ゴキブリヘアー」とあだ名していた。

 

当然ながら女性タレントのみなさんに彼の努力が伝わることはなかった。

 

チク……

さて、そんなバカ田のアシスタントをしていたときの話である。

とある有名ダンサーと数日間仕事をすることになった。

我々の担当する作品の振り付けをお願いするのである。

彼は変わり者で知られており、バカ田も数日前からしきりに

「いやー大丈夫かな〜?みんなアイツについていけるかな〜?

ま、いざとなったらオレがちゃんとフォローするからさ」

などと言っており、うるさかった。

 

バカ田としては、ぜひともこのチャンスを利用して、変わり者の有名ダンサーにも臆さずバシッと意見して、スタッフや出演者に尊敬されるカッコいいオレ、を演出したい。

そういう気持ちがビンビン伝わってきて、本当に面倒くさかった。

 

さて、有名ダンサー(仮にケンとしよう)がついに現場にやってきた。

数名のアシスタントを引き連れて現れたロン毛のサングラス。確かにすごいオーラだ。

 

ゆったりと歩いてきて、振付家の席に座った瞬間、ケンはおもむろに口を開いた。

 

「おなかすいた」

 

慌てだすケンのアシスタントたち。

どうやらケンは集合時間(昼の1時)の直前まで現場近くのホテルで爆睡しており、起きてから何も食べずに来たためかなり空腹だったらしい。

 

「どなたか、食べ物をわけてくださいませんか」

 

ケンのアシスタントが叫ぶ。

そこにいたスタッフや出演者は戸惑いながらも自分のカバンをガサゴソ探ったり、近くの自動販売機を探したりして、手当たり次第に食べ物をケンに献上した。

 

その間、ケンは黙って待っていた。

ごついサングラスのせいでその表情はうかがい知ることはできない。

 

献上された駄菓子や缶コーヒーを口にしながら、ケンは動じることなく言った。

 

「じゃ、始めようか」

 

そこから、意外にもその日の振付は何事もなく終わった。

いや、開始30分くらいでケンが咳き込み始め、今度はのど飴を探して大騒ぎしたりしたのだが、振付自体の進捗はまあいい感じだ。

 

しかし、こんなことが毎日続いてはたまらない。

自分で言うのもなんだが、当時のわたしは大変気が利いた。

翌日……

チク……

出勤途中にコンビニでカントリーマアムの大袋とのど飴を買うわたしがいた。

振付開始前に、ケンの席にカントリーマアムとのど飴をセットする。

いままでうちの現場でこんなことをしているスタッフなど見たことがないが、スムーズな業務のためには致し方ない。

 

いや、さすがにケンとアシスタントたちも、昨日のことがあったのだから学習してなにか食べてくるか、買ってくるかしているのでは……?

 

そしてケンは今日も現場にやってきた。

わたしがカントリーマアムとのど飴を置いた振付家席にやってくると……

 

何も言わずにカントリーマアムの袋を開封し、ムシャムシャ食べ始めた。

3枚ほどカントリーマアムを平らげてから、ケンは言った。

 

「じゃ、続きやろうか」

フウ……

いや、学習せんのかい。

 

結果として、その日の振付が終わる頃には、カントリーマアムものど飴も跡形もなく完食されていた。

ケン、腹減り過ぎかよ。

 

というわけで、ケンとアシスタントたちは、まったく学習しておらず、ケンは毎回お腹をすかせてやってくるということがわかった。

それから、毎日現場にお菓子を買って持っていくことがわたしの役割となった。

 

別に誰にも指示されていないし、なんなら誰もお菓子代を出してくれないのですべてわたしの自腹である。

 

なんとも納得の行かない、モヤモヤした気持ちで日々は過ぎていった。

 

そんなある日のこと。

 

季節はまもなく梅雨入り、なんとなく暑さも湿気も感じられるようになったころ。

その日は珍しく夕方に仕事が一段落し、わたしは片付けをしていた。

 

その頃にはなぜかケン以外の振付家やスタッフもわたしの用意したお菓子の詰め合わせをつまみながら仕事をするようになっていた。

 

コンビニで買う駄菓子など、たかだか数百円なのだが、特にわたしに感謝することもなく(直属の先輩だけは気づいてお礼を言ってくれたこともあった)人々がムシャムシャとわたしが買ったお菓子を食べるのを見るにつけ、(なんでなん……?)という思いが募る。

 

一方で、「めちゃめちゃ気が利いていて仕事場の雰囲気をよくするわたし」に酔っていなかったかと言われれば、まあ酔ってたよね。

自己犠牲の気持ちよさは、時に人をだいぶおかしくしてしまう。

 

その日のお菓子には、瓶入りのラムネ菓子が入っていた。

暑くなってきた気候に合わせて、爽やかなものを、という心ばかりの気遣いである。

 

(ちなみにその前日に、とあるスタッフがわたしが用意したクッキーを食べながら、「こんな暑いのにこんなパサパサしたもの食べらんないよね〜」と発言したこととは関係がない。◯すぞ。)

 

そのラムネにバカ田が食いついた。

 

「ラムネじゃん!知ってる?ラムネがイチバンいいんだよ?」

 

何がイチバンいいのかまったくわからないが、興奮したバカ田はまくしたてる。

 

「オレみたいなクリエイターはさ、ホラ、アタマ使うじゃん。

だからラムネでエネルギーを補給すんのがイチバンいいわけ」

 

周囲のスタッフやダンサーは「へぇ〜」とお決まりのリアクション。

バカ田はご満悦だ。

 

「ホラ、みんなもアタマ疲れてない?食べなよ」

 

しかし、バカ田も他のスタッフも、その場ではラムネを開封することはなく、各々仕事に戻っていった。

 

いや食わんのかい。

まあ確かに、もうすぐ夕食かなという時間帯に、よくわからない間食をとる意味もないしな。

 

そう思いながら横目で未開封のラムネ菓子の瓶を、わたしは確かに見た。

 

その十数分後である。

 

いつものとおり、誰もいなくなった仕事場に、食べられなかったお菓子を回収しに行った。

そこには、数枚のクッキー、小粒のチョコレート、のど飴などに混じって、さっきスルーされたラムネ菓子の瓶があるはずだった。

もしかしたら誰かがあのあと数粒食べたかもしれないが、さすがにこの短い間に一瓶食べ切られていることはないだろう。

そう思っていた。

 

しかし

 

ラムネ菓子は瓶ごと消えていた。

 

バカ田〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 

あいつ、瓶ごと持って帰りやがった!!!!!

 

嘘だろ!?

 

部下が自腹で仕事場に置いてる差し入れだぞ!?

瓶ごと持って帰るな!!!!

 

ていうか、それは、もう

 

どろぼう

どろぼう

なんよ!!

 

あまりのことに、わたしは膝から崩れ落ちた。

 

確かに、バカ田がラムネを持ち帰るところを見たわけではない。

しかし、明らかに一人だけラムネへのリアクションがおかしかったバカ田である。

どう考えても犯人だろ、お前。

 

その日を境に、わずかに心の隅にあった部下としてバカ田を尊敬する気持ちが、完全に消え去った。

 

わたしにとってバカ田は、強欲でしみったれのウェッティなゴキブリでしかなくなった。

 

バカ田には他にもどうしようもないエピソードがたくさんある。

 

バカ田とタクシーに相乗りしたとき、わたしより先に降りながら、「この子の分も払っとくよ」と言って出した金額が、その時点までのメーターの料金より20円くらいしか多くなかったこと。

 

出張のときに会社が出すホテル代をちょろまかすため、仕事場から2時間かかる実家に泊まって、しかもそれを周りに自慢していたこと。

 

あと普通にセクハラとパワハラ

 

しかし、このラムネどろぼう以上にわたしを失望させた事件はない。

 

余りにも、人として、しょうもない。

 

この事件から数年後、さすがのブラックさに耐えかねて、わたしはこの仕事を辞めた。

 

それから何回か転職したが、そのたびに職場環境はよくなり、同僚はまともな人ばかりになっていった。

 

しかし、何年たってもこの狂った職場の人々を思い出しては、布に針をぶっさす夜があるのだ。

ラムネ菓子の刺繍

 

おしまい

おしまい




君は「宇宙からのメッセージ」を知っているか

YouTubeより

 

2018年の春。

私はうつで仕事を休んでいた。

うつで仕事を休んでいるので、なーんもすることがない。

元気がなくて何もできないからだ。一日中布団の上にいるしかない。

かといって、本当に何もしないでいると、起きている間中、不安とか自分を責める声とかに悩まされる事になる。

そんなわけで、布団の中でパソコンを開き、ネットフリックスやらアマゾンプライムやら YouTubeやらを見て気を紛らわして一日をやり過ごす、と言う日々だった。

 

その頃よく見ていたのは1970年代〜1980年代くらいの日本のヤクザ映画だった。

なんでかと言うとその頃放送していたポプテピピックと言うアニメのせいで、このアニメに「仁義なき戦い」パロディ回があったり、ポプテピピックきっかけで成田三樹夫と言う俳優のファンになったりといったことがあったからである。

(ちなみにポプテピピック(漫画もアニメも好きだが特にアニメ)はめちゃくちゃうつの脳によかったので、そう言う話も今後書けたらなと思う)

 

それまでミニシアターでやっているようなアート系の洋画なんかをよく見ていた私であったが、昭和のヤクザ映画はかなり面白く、またうつのボンヤリした頭でも見やすいと言うことがわかった。

 

で、問題は「宇宙からのメッセージ」という映画である。

これはヤクザ映画ではない。

いわゆるスペースオペラってやつである。

 

なぜヤクザ映画を見ていた私が突然スペースオペラを見出したか。

この作品は実録ヤクザ映画で時代を席巻していた東映が、ヤクザ映画の名監督深作欣二を起用し、キャストにもヤクザ映画で活躍するスターを迎えて撮った作品で、ほぼヤクザ映画みたいなもんだし(ほんとか?)、何より私の推し俳優成田三樹夫が出演していたからだ。

 

この「宇宙からのメッセージ」は、あの「スター・ウォーズ」が爆流行りしていた1978年に、原案に「仮面ライダー」の石森章太郎、監督に「仁義なき戦い」の深作欣二、キャストも今をときめくスターに加え、海外の俳優も起用する気合の入りようで制作された、日本特撮映画の頂点に立つべき超大作!

 

……になるはずだったクソ映画である。

 

ーーここから言い訳ーー

一応断っておくと、ここで言う「クソ映画」とは「クソゲー」などと同じニュアンスで、お世辞にも出来がいいとは言えないが、しかし噛めば噛むほど味が出る、妙に癖になる、でも何回も見るもんじゃないな、まあみんな頑張ってるんだけどさ。みたいな映画のことである。決して見る価値もないつまらない駄作と言う意味ではない。まあ強いてみる必要があるかと言えば、ないけど……

ーー言い訳終わりーー

 

なんでこんなに気合が入っているのにクソ映画になるのか。

あるいは気合が入りすぎているからクソ映画になってしまうのか。

 

とりあえず、私から見てクソだな〜と思うポイントを紹介していこうと思う。

YouTubeより

 

クソポイント① スペースオペラがよくわかってない。

いきなり致命的なのだが、製作陣の、「スペースオペラってこう言うことやろ」がことごとくなんかズレている。

そもそも、話のベースが「南総里見八犬伝」って言うのがよくわからない。なんで?なんで八犬伝ベースでやろうとしたの?

いや、まあ世の中にはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を翻案して大ヒットした「ウェスト・サイド・ストーリー」とかもあるし、「スター・ウォーズ」もある種時代劇っぽい筋書きだし、古典を宇宙ベースで翻案しようという発想はわからんでもない。

しかし、あまりにも八犬伝であり、日本的時代劇の空気なのだ。

 

作監督らしさが出過ぎちゃったのが原因かな〜とも思わんでもない。

冒頭、迫害された惑星の人たちが助けてくれる勇者を探して旅に出るくだりは、まんま深作時代劇の田舎の村の描写って感じだし。

 

もちろん、この映画が公開されてから何十年もたった世界に生きている私が見てそう言うこと言うのは後出しジャンケンかもしれない。

スター・ウォーズ」もまだ第1作しかないし、ガンダムもまだ世に出てないし、「銀河英雄伝説」だってまだないし……

そんな時代の日本という国で作られたなら、よくわかってなくても仕方ない……?のか?でも「宇宙戦艦ヤマト」はもうアニメやってたらしいですよ??「スター・トレック」も日本公開されてたらしいし……

 

とにかく、大作でありながらどうにも手探り感が否めない出来なのである。

 

クソポイント② 戦闘力0のスペースチンピラがなぜか勇者枠で登場する。

これは個人的に一番気に入っているポイントかつ一番意味不明だなと思っているところなのだが、本当になぜかわからないが宇宙のチンピラ、スペースチンピラが出てくるのだ。

スペースチンピラは、おおむね日本のチンピラと姿形も変わらず、言動も変わらない、ただのチンピラである。

しかし、なぜかこいつが作中では迫害された惑星を救う勇者認定されているのだ。

 

先ほど言ったように、「宇宙からのメッセージ」は、「南総里見八犬伝」をベースにしている。そのため、なんか神秘的な木の実(なんだそれ)に勇者認定されて敵と戦うキャラクターが8人登場する。

そのうちの一人がこのスペースチンピラである。

 

別にチンピラが勇者でもいいだろ、と思われるかもしれないが、大きな問題がある。

こいつの推定戦闘力は0なのだ。

 

勇者なのだから何かしら敵と戦うとか、敵と戦わなくても参謀役とか情報収集の能力があるとか、そういう描写は一切ない。なんか他の勇者に混ざって、チンピラっぽい動きをしている。終わり。なんでや。

 

そう、明らかに数合わせのメンバーなのである。

 

南総里見八犬伝」を翻案しようとする者に降りかかる呪いであるところの、「8人全員のキャラを立たせて活躍させる出番を作るの、尺的に無理の呪い」の犠牲者。

 

そもそもメインキャラが勇者枠だけで8人というのは多い。原作は長編小説だから成立しているが、舞台や映画や単発ドラマだと無理がある。なぜ「宇宙からのメッセージ」製作陣は馬鹿正直に「8」という数字をそのまま使ったのだろうか……6とかでもいいじゃん。

 

しかし、このスペースチンピラ、作劇上まったく必要性がないキャラでありながら、所々で「私は深作欣二映画を見ているのだなあ」と実感させてくれるという謎の効果があるのであった。

 

クソポイント③ 私の推し俳優・成田三樹夫がトンチキな格好で登場する。

 

これは見てもらった方が早い。

 

youtu.be

 

この顔面が銀色のカニっぽい人がそれである

https://www.youtube.com/watch?v=b3Er70VURywより

な ん こ れ

 

いつもの推しはこんな感じ。

国際情報社 撮影者不明, Public domain, via Wikimedia Commons
かっこいいね

いつもはダンディーな推しが顔面銀色のカニにされた人間の気持ちが君たちにわかるか。

別にわからなくてもいいが……

成田三樹夫が演じたこの悪の皇帝ロクセイア12世だが、同じ星出身という設定の、千葉真一演じるハンス王子は顔面は銀色じゃありません。なんでなんだ……

この顔面銀色蟹皇帝ことロクセイアさんは、なんと二刀流の剣術の使い手でもあり、物語終盤で謎のチャンバラをやってくれたりもする。

 

ここまでさんざん映画の悪口を行ってきたが、豪華製作陣が夢と希望をもって製作した超大作、もちろんいいところもある。

 

いいところ① 特撮技術が当時の最先端ですごい。

 

やはり特撮技術は流石のもので、小型宇宙船でのカーチェイスなどはなかなか迫力と速度感を感じる。

もちろん昔の作品なので「この頃にしてはすごい」ということではあるのだが、脚本や演出の面ではSFやスペースオペラについてあやふやな感じなのに、特撮となるとしっかりした自信を感じるので、うまく噛み合っていればいい作品だったんだろうな〜と圧倒的「惜しさ」を感じる。

 

いいところ② 推しが頑張っている。

 

結局推しの話かよ、と思われたかもしれないが、結局推しの話である。

だってこんな映画推しが出てなきゃ真面目に最初から最後までみるわけないだろうが。本当につまんないんだぞ。

 

そう、私の推し俳優成田三樹夫は、顔面銀色蟹になっても真面目に芝居をしていた。そういう真面目な人間なのである。

 

作中、成田三樹夫演じる悪の皇帝ロクセイアが、その辺にいた地球人を捕まえて頭の中を覗き、地球という美しい惑星の存在を知る、というシーンがある。

彼が率いるガバナス帝国は、なんやかんやで故郷を失い、新天地を求めて彷徨を余儀なくされていた。そんなわけで、新たな故郷となりうる美しい惑星は、この上なく魅力的なのである。

このシーンで、成田三樹夫は素晴らしい芝居をする。

初めてみる惑星の映像に、冷徹な支配者である皇帝が、子供のような輝く瞳でため息をつく。

どうしてもこの惑星を手に入れたい。そういう思いが伝わってくる、丁寧で美しい芝居である。

 

このシーンを初めて見た時、私は感動した。そして思った。

「そんなに真面目に芝居せんでもええんちゃうか」と。

 

もちろん役者というのはどんな作品でも役に真摯に向き合い演じるのが理想だとは思うが、それにしたってこんなちぐはぐな映画で顔を銀色に塗られてこんなに頑張らなくてもいいんじゃないか、そういう気持ちになるほどの熱演であった。

 

成田三樹夫出演作品は映画だけでも40作品以上見てきたが、こんな気持ちになった作品はこれくらいである。

 

以上が映画史に残るクソ映画「宇宙からのメッセージ」の紹介である。

これを読んで映画を見てみてもいいし(2022年5月現在、アマゾンプライムビデオなどで有料で視聴できる)、見なくてもいい。

おそらく見てみると想像の3倍つまらないが、私に文句は言わないでほしい。

いい映画を見たかったら「仁義なき戦い」シリーズとか、「柳生一族の陰謀」とか、同じスタッフ・キャストで名作がたくさんあるので、そちらを見ることをおすすめする。

 

この文章はゴールデンウィークが休日出勤により蹂躙され、やっと日曜日の午後だけ休みをもぎ取ったものの明日からも普通にカレンダー通り仕事の人間がそのなけなしの休みを利用して書いている。

なんでこんな貴重な休みを使って見なくてもいい映画のレビューをしてしまったのか。

 

深く考えたら負けである。

アムウェイのエナドリ

エナジードリンクのいらすと


昔勤めていた会社の同期がバリバリのアムウェイっ子だった。

性格はすこぶるよく、いつも明るく、人当たりも良く、かといって八方美人でもなく、私は今でも彼女が大好きだ。

アムウェイっ子だが、周囲に売り込んだりはしてこない。さすがに職場の人間関係の中でアムウェイ営業やるのはまずいと思っていたのかもしれない。

そう言う分別を感じさせつつ、サプリから家電、洗剤、食品に至るまで、家中アムウェイ

売り込みはしてこないが、純粋無垢な輝く瞳でアムウェイ製品の良さを語る。そしてアムウェイ製品をタダでくれようとするのであった。

 

我々が勤めていた会社は漆黒のブラック企業であった。

入社から数ヶ月。圧倒的ブラック労働でフラフラになった私に、アムウェイっ子はあるものをお裾分けしようとしてくれた。

「これ、アムウェイエナジードリンクだよ!」

 

アムウェイエナドリ……?

 

アムウェイエナジードリンク。割と意外性のある単語の並びである。

見ると、アムウェイっぽいと言うよりはエナドリっぽいデザインの缶が差し出されていた。

彼女の顔を見ると、明らかに「善」の表情で満ちている。

一切の悪意や、これを機にアムウェイ沼に落としてやろうという企みのない、純粋な善意。その善意でもって私にアムウェイエナドリを分けてやろうと言うのだ。

 

ヤダ〜。(心の声)

 

嫌だった。

アムウェイも普通に怪しいし、個人的にはエナドリ一般も苦手だ。

私は困った。相手は大好きな同期で友人である。

しかし、アムウェイエナドリを貰うのも嫌だった。

おそらくここで受け取れば、彼女はアムウェイエナドリを入手するたびにお裾分けしてくることだろう。

黙ってもらってその都度捨ててもいいのだが、開けてもいない缶を捨てるたびにどんよりした気持ちになるだろうし、飲んだ感想を聞かれても厄介だ。

どうしたら穏健にこの場を逃れられるだろうか?

彼女は畳み掛ける。

 

「これはさ、飲む点滴って言われてて、一発で元気になるからさ!」

 

「飲む点滴」めちゃくちゃアムウェイっぽい語彙だ……とちょっと笑いそうになった。

いやわろてる場合ちゃうねん。

この純粋な善に対して私ができることは……

 

「ア……私、カフェイン飲むと体調悪くなるんだよね……!」

 

完璧な答えだった。実際そのころは不眠症気味で、カフェインが入ってるものはなるべく避けるようにしていた。

 

「そっか〜。それは残念だね……」

 

勝った。アムウェイといえども相手は所詮エナドリ。コーヒー1.3杯分(なんでそこは曖昧なんだ)のカフェインが仇になったようだな。

 

こうして私はアムウェイエナドリの恐怖から逃れられた……かのように思えた。

 

半年後。

彼女がまたピカピカの笑顔で、見慣れぬピンク色の缶をもって私のデスクにやってきた。

 

「お待たせ! やっと出たの! アムウェイエナジードリンクの、ノンカフェインタイプが! よかったね!」

 

その「よかったね」は、本当の、混じりっ気のない、祝福の言葉であった。

そのピンクの缶は、私がブラック企業を退職し、その頃住んでいたアパートを退去するまで未開封のまま我が家に存在し続けたのであった。




57577に飽きたのであたらしい短歌作ろうよ

こんにちは。

みけこと申します。

 

突然ですが、短歌はお好きですか?

短歌。国語の授業とかで習う57577のやつです。

俳句じゃないよ、77がついてる方だよ。季語はいらないよ。

 

そんな短歌を私はかれこれ15年くらい作っているんですが、

正直さ、

 

57577じゃなくてもよくない?

 

って最近思ったんですよね。

 

日本語の詩といえば五七調か七五調。ほんとにみんなそれで満足してるんですか?

奈良時代から変わらないこんなリズムに固執してて、新しいフロウは生まれるのかよってハナシ。。。

 

ということで、こんなおもちゃを作ってみました。

 

mikeko-hirunelabo.hatenablog.jp

575ジェネレーターです。

575ジェネレーター

こんなの

ここを押すと

575ジェネレーター

ここの数字がランダムに変化するので

↑でランダムに出てきた数字に従って短歌(この場合短歌と呼んでいいのかわからないけど)を作ろう!というおもちゃです。

 

Twitter

Twitterでシェアもできるよ。(この機能を作るのが一番めんどくさかった)

試しに作ってみた

最初に自分で短歌を作ってみたのがこちら。

内容は置いておいて(みかんを食べていました)、おもしれ〜。

やっぱり「1」とか「9」とか出てくるのが新鮮ですね(今回は1〜9の数字がランダムで出てくるようにしています)

「1」はかなり難しく、なんか生まれたてのロボットがぽつぽつ喋ってるみたい。

この時は偶然すべて奇数が出てきたんですが、「7・1・5」で一度切れて「9・3」につながるリズムみたいなものがちゃんと感じられるのも面白かったです。

 

これは他の人にも遊んでもらいたいな〜!

 

公開するぜ

ということで公開してみました。

 

すぐに達人が現れる

リリース数分でこのジャンルの達人が現れました。

かっこよ〜〜〜〜!!!

これも「6・6・5」のところがいい感じのリズムになっていて、内容とも合っていてすごくいい。

 

みんな天才か?

 

傑作選

みんながTwitterに投稿してくれた短歌(?)の中から、私がグッときたやつを紹介します。





宇宙ドライブ。

 

「1・1」の無茶振りへの力技のアンサーと、そこからの「9・9」に「ジェネレーションギャップ」といういつもの短歌では使いにくい単語を入れてくるテクニシャン。

 

こういう日常っぽいやつ大好きなんですよね…… 「うん」のニュアンスがいいねえ。

 

現代短歌っぽいモチーフと構成なんですが、変則リズムの緩急で不思議な浮遊感があります。

 

そうだね。

 

こういうことも起きる。575ジェネレーターなので。

 

みんなも遊んでみてね

というわけで、作ったおもちゃでいろいろな人に遊んでもらって楽しかったです。

こうやってツイッターでシェアするだけじゃなくて、同じ数字で複数人で作って歌会(短歌を作って持ち寄り、みんなワイワイ議論する会)をやっても面白そうだな〜とか、いろいろな遊び方が出来そう。

短歌経験者も未経験者も、遊んでシェアしてもらえると嬉しいです。

俳句バージョンも作ったよ

数字を3つランダムに吐き出す俳句バージョンも作ってみました。

こちらも遊んでみてね。

季語は入れても入れなくてもいいんじゃないかと思います。

 

mikeko-hirunelabo.hatenablog.jp

ではまた〜

575ジェネレーター

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575ジェネレーター

短歌バージョン

5 7 5 7 7

 

俳句バージョン

5 7 5

 

 

使用例